Comme des Garconsのデザイナーとして世界に様々な影響を与える川久保 玲。UKの大手一般新聞the Gurdianのweb版で行われた彼女のインタビューが翻訳されたものが最近Yahoo!Newsにアップされた。靴底さんのtweetで知ったその内容に何かとても大切なメッセージを感じたので紹介するよ。
全文はこちら
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180926-00010002-clc_guard-int
オリジナル記事はこちら
The Gurdian
https://www.theguardian.com/fashion/2018/sep/15/a-rare-interview-with-comme-des-garcons-designer-rei-kawakubo
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Yahoo!Newsは一週間ぐらいすると削除されて読めなくなるというのと、AFPBB Newsにも日本語訳が載ってるページが見つからなかったのでアーカイブの意味で全文転載させていただきます。掲載ページが見つかったらリンクを貼って削除します。オリジナル記事の画像を見て彼女の世界観を感じながら読んでもらうのがベストです。
原題:A rare interview with Comme des Garçons designer Rei Kawakubo
邦題:コムデギャルソン、川久保玲インタビュー「仕事に楽しみは感じない」
【記者:Jess Cartner-Morley/翻訳編集:AFPBB News 】
私は川久保玲(Rei Kawakubo)に服のことを聞きに来たわけではない。彼女はもう服を作っていないからだ。それでもなお、川久保は世界で最も重要なファッションデザイナーの一人であり続けている。コムデギャルソン(Comme des Garcons)の5年前のコレクション「Not Making Clothes(服を作らない)」では、細長い黒布でできたおりのような服や、フリルの洪水に半分隠れた鮮やかなピンク色のタイツなどを身に着けたモデルがランウェイを歩いていた。その9シーズン後の今も、パリファッションウィークでは毎回コムデギャルソンのショーが行われている。ブランドの年間売上高は推定2億8000万ドル(約315億円)。それでも、川久保は服を作っていないと主張する。つまり、川久保玲とはどこまでも「ハイコンセプト」 なのだ。
「服を作らない、とはどういう意味なのですか?」と私が質問すると、少し間が空いた。川久保への質問はすべて、コムデギャルソン・インターナショナルの最高経営責任者(CEO)エイドリアン・ジョフィ(Adrian Joffe)の通訳を通すからだ。ジョフィは川久保の夫になって25年、ビジネス上のパートナーになって31年になる。日本語以外のやり取りは、ジョフィを通じて行われる。ジョフィが通訳し、川久保が何かを言い、2人は日本語で激しく議論する。
川久保はスフィンクスのように謎めいた雰囲気で座っている。腕を組み、ジョフィから私にさっと視線を移す。「本当は毎シーズン、新しい脳が欲しいと思っている、と言っている」。やっとジョフィが言った。「だが、それはできない。だから、仕事に向かう新しい方法を見つける必要がある。9シーズン前はこう考えていた──服を作ろうとしなければ、何か新しいものを作り出せるかもしれない」。それを聞いて私は、独創的な考えのためにゆとりを作るということなのかと尋ねた。ジョフィは川久保と相談し、励ますようなかすかな笑みを私に向け、言った。冷たい言い方ではなかった。「そんなに単純なことではない」
インタビューの序盤はそんな感じで過ぎていった。ファッションデザイナーの多くは、自分の仕事は自己表現だと言うはずだ。では、コムデギャルソンは私たちにあなたの何を語っているのか。そう質問すると、ジョフィが通訳し、川久保が答え、2人は日本語で話し合った。それからジョフィは、川久保はあなたに質問の意味をはっきり説明してもらいたがっていると話した。私が言葉を探していると、川久保が再び話し始めた。「(自分が何を語りたいかは)関係ないと彼女は言っている」とジョフィが言う。なるほど。「自分の生き方やエネルギーを得る方法は、コレクション制作のためにしなければならないこととは別のことだ。川久保の生き方と服の作り方には何のつながりもない」
川久保との会話は実力を試されるパフォーマンスアートのような体験で、それは繭から出てきたチョウのように毛糸の束に包まれたモデルたちが、子どもが老婦人をまねるように大げさにゆっくり歩く川久保のコレクションのランウェイを見るという、やはり実力を試されるパフォーマンスアートのような体験にとても近いと感じた。実際、その二つの感覚の間のシナジーを明確に感じたので、私は川久保の答えを聞き間違えたのではないかと思い、確認してみた。「彼女はそう言った」。ジョフィは、まるで私の苦境に同情してくれているかのように眉を動かしながら、そう繰り返した。「彼女はなぜ、私たちが彼女の答えに当惑するのかと疑問に思っている。私もあなたと同じくらい当惑している、と彼女に言った」。
今度は川久保が長い時間日本語で話し、ジョフィが途中で「分かっているけど驚いた」と英語で川久保に向かって言うと、会話はまた日本語に戻った。ようやくジョフィが私に向かって言った。「彼女は、私、あなた、そしてすべての人々が誤解していると思っている。自由を信じることや、感情を解放することで得られるエネルギーについて、彼女が感じていることや語ってきたことは、作品とは全く関係がない。それは仕事とは直接つながっていない。仕事、つまりコレクションを作ることは責め苦だと彼女は言っている。それはある意味、自分が何者であるかを総力を挙げて表現することだ。長年やり続けていることだが、チームでやっているわけではない。玲イコール、コムデギャルソンなのだ。だが、彼女がどういう人物かということと、どのように生計を立てているのかということは、やはり異なる。私は、ようやく(彼女が)言いたいことが分かった」とうなずき、ほほ笑みながらジョフィは話を終えた。「なるほど、分かりました」と、説得力があるように聞こえてほしいと思いながら私も言った。
川久保との出会いを、彼女をからかっているわけでも、不条理に鈍感なポーカーフェースだとも思われないように語るのは難しい。彼女をからかうなどもってのほかだ。川久保は先見の明があり、ラジカルで、彼女自身がそれを好むかどうかはさておき、後にはフェミニストたちのヒロインにもなった。アーバン・クリエイティブの色としての黒を生み出し、ハイファッションを虚栄から解放し、それらすべてを引き裂かれたような服による独創的なキャットウォークでやり遂げた。彼女は自らの仕事を、禅の公案に例えたことがある。仏僧たちが定めた解決不可能なパズルは、解決できないがゆえに、人に知性の限界と心を解き放つことを教える。川久保は私たちのファッションに対する考え方を変えただけではなく、文化と商業というフィールドの中でファッションと思想が共存できる方法も変え、若い世代にも影響を与えてきた。
それでも川久保と過ごす1時間、喜劇の感覚にはふたをしなければならないだろう。私は色に関する質問をした。川久保は以前、黒に代わる新しい色は赤だと宣言したが、最近のコレクションが虹のような鮮やかな色になっているのはなぜなのか、その考えを知りたかった。質問が通訳されると、2人の間で激しいやり取りが交わされた。ジョフィが私の方を向いて「申し訳ない」と言ったとき、私は何でこれほどの議論になっているのだろうと考えていた。ジョフィは多分、一瞬、私の存在を忘れていたのだろう。「質問は何でした?」
フェミニストたちが川久保を自分たちのヒロインだと呼びたがる一方で、彼女は自分自身にレッテルを貼ることを拒んでいる。だが唯一、「パンク」であるとだけは自認している。「パンクは一つの精神であり、生き方だ」
ジョフィの通訳によると、川久保はパンクとして「イージーファッションに怒りを感じている。スポーツウエアやストリートファッションが人気だが、それでは本当の意味で因襲を打破するとは言えない。人々はこうしたファッションに夢中になっているようだが、まったく反逆的ではない」と語った。ファッションは気軽であってはいけないのか?と聞くと、通訳された言葉を聞いて激しくうなずいた。「物事が簡単すぎると、人々は考えなくなり、進歩が生まれない。これはファッションだけではなく、すべてに言えることだ」
「他に質問は? 彼女は疲れてきたようだ」。川久保が自分のことを説明しようとするとき、その忍耐力は限られていることで有名だ。
「彼女に、コレクションの制作や店舗のデザインなど、どれほどの量の仕事をしているか説明するように言われた。仕事はまったく止まらない」とジョフィが言う。仕事の楽しい面は何かと尋ねると、通訳を聞いて首を振った。「仕事に楽しみは感じない」(川久保は常に「仕事」と呼ぶ)。「仕事を楽しいと言う人は、仕事を真剣にしていない人だ、と言っている。新しい何かを作りたいと思ったら、唯一の方法は満足しないことだ」。
ファッション史に興味がないことで有名な川久保は、自分が後世に残す遺産にも興味がないのだろうか。数分間2人で話すと、ジョフィが言った。「全く考えたことがない。後世のことは気にしないし、どうとも思わない」。川久保が何かを日本語で言い(否定的なトーンに聞こえた)、ジョフィは川久保に英語で言った。「誰もがそのことを考える! それを考えないのは君だけだ。デザイナーたちは歴史を大切に思い、自分の功績がどうなるか考えてるからこそ、みんな財団を作っている。こんな考え方をするのは、君一人だけだ」。川久保は、さっきよりも落ち着いた声で何か言った。「地上から自分がいなくなった時、ここに何も残っていなくても気にしない、と言っている」。ジョフィは小さなため息をつきながら説明した。「彼女はとても独特だ」。川久保は私を見て、ほほ笑んだ。
靴底さん
twitter:
https://twitter.com/komtarr